犯人は誰か?ではない。日本を蝕む「誰も悪くない」というシステムの欠陥

社会システムの解剖

先月行われた参院選。そして、大手メディアではほとんど報じられることのない、霞が関での抗議デモ。

「これだけ国民が生活苦を訴え、減税を求めているのに、なぜ私たちの声は届かないのか?」 「選挙で意思を示したはずなのに、なぜ政治は変わらないのか?」

もしあなたが、そんなやり場のない怒りや無力感を抱いているのなら、この記事を読んでみてほしい。問題の本質は、あなたが思っている場所とは、少し違うところにあるのかもしれない。

なぜ「消費減税」は実現しないのか?

「社会保障の財源のために、消費税は仕方ない」。私たちは、そう聞かされ続けてきた。だが、もしその常識が、ある特定のプレイヤーにとっては全くの「嘘」だとしたら?

多くの国民の生活を直撃する消費税。しかし、経団連に名を連ねるような日本の大企業、特にグローバルに展開する輸出企業にとって、消費税は「痛みのない税金」だという事実がある。

そのカラクリが「輸出戻し税(還付金)」だ。

これは、国際的なルールである「消費地課税主義」に基づく、合法的な制度だ。海外で消費されるモノに日本の消費税はかけない、という原則である

その結果、輸出企業は、製品を作るために国内の取引先に支払った消費税が、確定申告によって全額、国から返還される

例えば、100万円分の部品(消費税10万円)を国内で仕入れて製品を作り、海外に輸出した企業は、支払った消費税10万円がまるごと国から還付される。消費税率が上がれば、還付される額も増える。

彼らにとって、消費税は負担ではない。それどころか、他の税金(法人税や社会保険料)が上がるくらいなら、消費税で財源を確保してくれた方がよほど「合理的」なのだ

「誰も悪くない」というシステムの正体

ここで、巨大なシステムが姿を現す。

  1. 輸出大企業の合理性 自社の懐が痛まないどころかメリットさえあるため、彼らは消費税増税を容認、あるいは推進する 。これは、企業としての利益を最大化する上で、極めて合理的な判断だ。
  2. 官僚組織の合理性 景気に左右されにくく、安定した税収を確保したい財務省にとって、消費税は最も管理しやすく、財政規律を維持する上で理想的な税だ 。これも、組織の目的を果たす上で、極めて合理的な判断である。

ここに、

「グローバルな利益を追求する大企業」と「財政の安定を追求する官僚組織」という、二者の利害が完全に一致した、強力な共存関係が生まれる 。彼らはどちらも、日本を悪くしようなどとは微塵も思っていないだろう。ただ、それぞれの立場で合理的に行動しているだけだ。

しかし、その結果として生まれるのは、GDPの85%を占める「内需」で生きる大多数の国民や中小企業の利益とは乖離した政策が、延々と維持され続けるという現実である

怒りの矛先をどこへ向けるべきか

この記事の冒頭の問いに戻ろう。「なぜ私たちの声は届かないのか?」

その答えは、特定の政治家や政党が無能だから、という単純な話ではない。彼らさえも容易に逆らうことのできない、この強力な「システム」が存在するからだ。

だから、怒りの矛先を間違えてはいけない。個々のプレイヤーを糾弾しても、システムそのものが変わらなければ、また同じことが繰り返されるだけだ。

本当に問うべきなのは、「犯人は誰か?」ではない。 「なぜ、プレイヤーの合理的な行動が、国民全体の不幸を招くのか?」 「このねじれたシステムそのものを、どうすれば修理できるのか?」

その本質的な問いを、私たち一人ひとりが持ち続けること。それこそが、この国を蝕む「誰も悪くない」という病から脱却する、唯一の希望なのかもしれない。


『 経団連と増税政治家が壊す本当は世界一の日本経済 』上念司 (著)

この記事で指摘した『大企業と政治の構造問題』を、さらに痛烈な言葉で告発しているのが本書です。なぜ日本の大企業は活力を失ってしまったのか?その裏にある既得権益の構造を、より深く知りたい方におすすめです。

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